産業医の衛生講話のネタと資料の作り方。10分・スライド10枚の組み立て

産業医の衛生講話。10分で伝えるネタと資料の作り方
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目次

産業医の衛生講話のネタと資料の作り方。10分・スライド10枚の組み立て

こんにちは。産業医の角田拓実です。

今回は「産業医の衛生講話のネタと資料の作り方」について解説していきます。

産業医になると、職場で健康や衛生の話をする「衛生講話」を頼まれることがあります。初めての先生は、何をテーマにすればいいのか、スライドを何枚作ればいいのか、迷うことが多いと思います。

私の場合、衛生講話はなるべく10分ほど、スライドは10枚ほどで終わる形にしています。この記事では、ネタの決め方から資料の作り方、依頼を受けたあとの確認までを順番に紹介します。

Dr.瑛理

初めて衛生講話を頼まれました。何を話せばいいのか分かりません…。

角田拓実

ネタはゼロから考えなくて大丈夫です。職場と時期から選ぶところから始めましょう。

衛生講話のネタは「その職場」と「その時期」に合わせて選ぶ

衛生講話のネタは、職場の仕事(有機溶剤・特定化学物質、転倒などの労働災害)、からだの健康(高血圧などの生活習慣病)、季節(冬の感染症、夏の熱中症)から選ぶ

衛生講話のテーマは、本当に何でもなり得ます。私が実際に話してきたのは、次のようなテーマです。

  • 感染症
  • 高血圧などの生活習慣病
  • 転倒などの労働災害
  • 有機溶剤・特定化学物質

どれを選ぶかで大事なのは、その事業所に合っていて、その時期に合っている内容にすることです。

化学物質を扱う工場なら有機溶剤や特定化学物質、立ち仕事や階段の多い職場なら転倒、健診のあとなら生活習慣病というように、職場の様子から選ぶと話が届きやすくなります。

依頼元からテーマを指定されることも多いので、まずは指定があるかを確かめましょう。

Dr.瑛理

自分の専門の話をすればいいと思っていました。

角田拓実

聞く人が「うちの職場の話だ」と思える内容を選ぶのがオススメです。

職場の様子は、訪問のたびの巡視でもつかめます。

季節と行事で選ぶ12か月の衛生講話のネタ

12か月の衛生講話のネタ。1月冬の感染症、2月化学物質、3月女性の健康・メンタル、4月熱中症の備え、5月禁煙・熱中症、6月食中毒、7月熱中症・転倒、8月食中毒、9月生活習慣病・睡眠、10月労働衛生週間、11月長時間労働、12月ハラスメント・感染症

ネタに迷ったら、厚生労働省の週間・月間に合わせると決めやすくなります。その時期に合ったテーマになるので、聞く人にも入りやすくなります。

月公式の週間・月間(令和8年度)話しやすいネタの例
1月—冬の感染症
2月化学物質管理強調月間有機溶剤・特定化学物質の扱い
3月女性の健康週間・自殺対策強化月間女性の健康、メンタルヘルス
4月熱中症予防のキャンペーンの準備期間熱中症の備え
5月熱中症予防のキャンペーン開始・禁煙週間禁煙、熱中症
6月—梅雨どきの食中毒
7月全国安全週間・熱中症予防の重点取組期間熱中症、転倒などの労働災害
8月食品衛生月間食中毒
9月健康増進普及月間・職場の健康診断実施強化月間・自殺予防週間生活習慣病・高血圧、睡眠
10月全国労働衛生週間(10月1〜7日)職場の健康づくり全般、メンタルヘルス
11月過労死等防止啓発月間・過重労働解消キャンペーン長時間労働と健康
12月職場のハラスメント撲滅月間ハラスメント、冬の感染症

週間・月間は厚生労働省「令和8年度 年間行事予定(週間・月間)」、熱中症は「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」(5月1日〜9月30日、4月は準備期間、7月は重点取組期間)をもとにしています。「—」の月は公式の行事がないので、季節の話題として選んでいます。

日付や回数は毎年変わります。講話の前に、その年のページで確かめておきましょう。

角田拓実

年間の予定に月とテーマを先に入れておくと、毎回のネタ探しが楽になりますよ。

衛生講話の長さは10分が基本。30分・1時間との違い

衛生講話の長さは10分がいちばん多く顧問料の中で行うことが多い。30分は時々でセミナーなら費用が発生、1時間はほとんどなくセミナー・講演として費用が発生

私の衛生講話は、なるべく10分ほどで終わる形が多いです。時々「30分でお願いします」と言われることもあります。

1時間の講話は、ほとんどありません。そこまで長くなると、衛生講話というよりセミナーや講演になり、きちんと費用が発生する形になります。

長さよくある形費用の考え方
10分いちばん多い嘱託の顧問料の中でやらせてもらうことが多い
30分時々頼まれるしっかりしたセミナーなら費用が発生する
1時間ほとんどないセミナー・講演として費用が発生する

単発で衛生講話やセミナー講師を受けるときの相場は、5〜10万円ほどです(時間で加算され、経歴で上下します)。

Dr.瑛理

10分なら、最初の講話でもなんとかなりそうです。

角田拓実

短い時間でも、職場に合ったテーマなら十分に伝わります。まずは10分の講話を1本作っておくのがオススメです。

単発の講話の受け方と相場は、こちらで詳しく紹介しています。

スライドは10枚、持ち帰ってほしいことは3つ

スライド10枚の組み立ての一例。1枚目表紙、2枚目今日の3つ、3〜8枚目は3つを2枚ずつ、9枚目明日からできること、10枚目まとめ

私はスライド10枚ほどで講話をすることが多いです。

たくさん詰め込んでも、聞く人はみんな覚えられません。持ち帰ってほしいこと(テイクホームメッセージ)が3つくらいあれば十分だと考えています。

10枚の組み立ての一例

枚目中身
1枚目表紙(テーマ)
2枚目今日持ち帰ってほしい3つ
3〜8枚目3つのことを、1つにつき2枚ずつ
9枚目明日からできること
10枚目まとめ(3つをもう一度)

最初と最後で同じ3つをくり返すと、10分でも話の芯がぶれません。

Dr.瑛理

伝えたいことが多くて、つい枚数が増えてしまいそうです。

角田拓実

3つにしぼるのが一番の準備です。入りきらない話は、次の講話のネタに回しましょう。

図と数字は厚労省の資料から。出典と加工の書き方

厚生労働省ホームページの資料は出典を書けば使え商用利用もできる、加工したら加工した旨を書く。こころの耳は学ぶ・広める目的の範囲で使え営利目的は遠慮。しっかりしたセミナーでは自分で作図

スライドの図や数字は、厚生労働省の資料を使わせてもらうことがあります。しっかりしたセミナーでは、自分で図を作ることもあります。

厚生労働省のホームページの資料は、権利の表記がない限り「公共データ利用規約(第1.0版)」に沿って使うことができ、商用利用もできます。条件は出典を書くことです(厚生労働省「利用規約・リンク・著作権等」)。

  • 出典の書き方の例:「出典:厚生労働省ホームページ(当該ページのURL)」
  • グラフなどを編集・加工したときは、出典とは別に「〜を加工して作成」と書く
  • 加工したものを、国が作ったように見せない
  • ロゴ・キャラクター、写真やイラストなど第三者の権利があるものは別に確かめる

同じ厚生労働省でも、メンタルヘルスのポータルサイト「こころの耳」は利用のルールが別です。研修のPDFは「セルフケアを学ぶ、広めるという目的の範囲内」で使え、営利目的の使用は遠慮するよう書かれています(こころの耳)。

睡眠なら「健康づくりのための睡眠ガイド2023」のように、テーマごとに厚生労働省のまとまった資料があります。使う前に、そのページの利用条件を見ておきましょう。

角田拓実

出典を書くのは、聞く人が自分で調べ直せるようにするためでもあります。スライドの右下に小さく入れておきましょう。

依頼を受けたら先に確認すること。録画と2回目以降の使い方

依頼を受けたら、パソコンをつなげるか・データを先に送るか・録画してよいかを先に確認する。作った資料は2回目以降もほぼ同じで使い、変わったところだけ足す

衛生講話の依頼を受けたら、最初に当日の形を確認します。

  • パソコンをつなげるか(持ち込みか、会場のパソコンか)
  • スライドのデータを先に送ったほうがいいか
  • 録画してよいか

録画は費用の話になることが多い

録画してよいかは、時々聞かれます。録画した講話は何回も使えるので、私は録画のときは費用が発生する形で処理することが多いです。

30分のしっかりしたセミナーで費用が発生するときは、録画はさらにプラスアルファの費用がかかるのが普通だと個人的には思っています。ただ、職場との関係や内容によっては「いいですよ」とすることもあり、交渉によるところが大きいです。

講話や録画の費用は、契約のときに決めておくと後で困りません。

2回目以降はほぼ同じ資料。変わったところだけ足す

一度作った資料は、2回目以降もほとんど同じ内容で使えます。年によって変わることや、法令の改正など最新の変更があるときは、そこを足します。

いろいろな会社で2回目、3回目と使えるので、講話の資料は財産として持っていて損はありません。

講話をきっかけに、その職場からほかの相談につながることもあります。

Dr.瑛理

一度作れば、次の会社でも使えるんですね。

角田拓実

はい。1本ずつ増やしていけば、どの職場でもすぐに出せるネタの引き出しになります。

衛生講話のよくある疑問

質疑応答で質問が出ないときは?

質問が出ないときは、それはそれでいいと考えています。

企業の人にとって興味のない内容だと、質問は出にくいものです。なるべくその事業所に合っていて、タイミングにも合っている、面白い内容を出してあげるのがいいと思います。

衛生講話は法律で決まっている?

「衛生講話」という言葉そのものは法令にありません。ただ、産業医の職務には「健康教育」と「衛生教育」が入っています(労働安全衛生規則 第14条第1項第7号・第8号)。

事業者には、健康教育などを継続的かつ計画的に行うよう努める義務があります(労働安全衛生法 第69条第1項)。衛生教育の実施計画は、衛生委員会で調べて話し合う事項の一つです(労働安全衛生規則 第22条第4号)。

雇入れ時の教育や危険有害業務の特別教育は、事業者が行う別の教育です。衛生講話と同じものではありません。

角田拓実

衛生講話は産業医の大事な仕事の一つです。職場の年間の計画に合わせて準備しておきましょう。

嘱託の訪問日の流れの中での講話の位置づけは、こちらが参考になります。

登録先を先に見ておきたい方は、以下の3社から始められます(広告)。どこも登録は無料で、産業医の求人も扱っています。求人は会社ごとに違うので、2〜3社に登録しておくと案件を比べやすくなります。希望の働き方は事実どおりに選んでください。

まとめ

今回は産業医の衛生講話のネタと資料の作り方に関して紹介を行いました。

  • ネタは「その職場」と「その時期」に合わせて選ぶ。感染症、生活習慣病、転倒などの労働災害、化学物質など何でもテーマになる
  • 迷ったら厚生労働省の週間・月間に合わせる
  • 長さは10分が基本。1時間になるとセミナー・講演として費用が発生する
  • スライドは10枚ほど、持ち帰ってほしいことは3つ
  • 厚労省の資料は出典を書いて使う。こころの耳は利用のルールが別
  • 依頼を受けたら機材・データ・録画を確認し、作った資料は2回目以降も使う

一度作った講話は、どの職場でも使える財産になります。まずは10分・10枚の講話を1本作ってみましょう。

角田拓実

以上、「産業医の衛生講話のネタと資料の作り方」についてまとめました。職場と時期に合ったテーマで、持ち帰ってほしいことを3つにしぼるのをオススメします。

嘱託の案件を探すときは、こちらの記事も参考にしてください。

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この記事を書いた人

産業医の角田拓実です。医局で多忙な業務をこなす中で自分の時間を確保できる働き方を求めて産業医に転向。コネクションも業務経験もない状態から嘱託産業医を始め、株式会社豊田自動織機の専属産業医を経て、現在は株式会社サンポチャートを設立し、東海地方を中心に50事業所以上の職場健康管理に関わっています。このサイトでは、産業医になりたい医師が最初の1社目に出会うまでの手順と、紹介会社・働き方の比較を実体験から書いています。
資格:日本医師会認定産業医/博士(医学)/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/健康経営エキスパートアドバイザー
著書:『40代から始めるあなたの予防医学』(自由国民社)、『図解入門ビジネス 職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本』(秀和システム新社)

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