産業医の法人化。産業医事務所を会社にする理由と手順
こんにちは。産業医の角田拓実です。
今回は「産業医の仕事を法人で受ける理由と、会社の作り方」について解説していきます。
嘱託の産業医を何社か担当するようになると、「法人にしたほうがいいのか」「どうやって作るのか」が気になってくると思います。
私は独立と同時に法人を作り、いまは筆者が代表を務める会社(株式会社サンポチャート)の産業医事務所として、ほぼすべての契約を法人で結んでいます。この記事では、その経験と一次資料をもとに、法人にする理由・作る手順・増える費用を整理します。
Dr.瑛理嘱託が増えてきたら、法人にしたほうが得なんでしょうか?



得かどうかより、「事業として産業医をやる形を整える」ことだと考えています。順番に見ていきましょう。
なぜ法人にするのか。個人で受ける報酬は原則として給与


まず押さえておきたいのは、個人の医師が受ける産業医の報酬は、原則として給与として扱われることです。国税庁の質疑応答事例に、次のように書かれています。
個人の医師が事業者から支払を受ける産業医としての報酬は、所得税法上は原則として給与に該当するものとして取り扱われています。
国税庁 質疑応答事例「産業医の報酬」
同じ事例では、医療法人が勤務医を産業医として派遣し、事業者から受け取る委託料は、法人の収入として消費税の課税対象になると説明されています。誰が契約の相手になるかで、報酬の扱いが変わるということです。
給与所得と事業所得の線引きは、報酬の記事で詳しく解説しています。
法人にして変わったこと
法人にすると、企業とのやり取りは企業対企業になります。雇用のような形ではなく、契約書を結び、毎月請求書を出してお支払いいただく流れです。
請求書の書き方や消費税・インボイスの扱いは、契約書の記事にまとめています。


法人にしても、産業医として選任されるのは医師個人


誤解されやすいのがここです。法人で契約しても、企業が産業医として選任するのは医師個人です。
労働安全衛生法第13条は、事業者は「医師のうちから産業医を選任」すると定めています。会社そのものが産業医になるわけではありません。
つまり、契約の相手は法人、選任されるのは医師個人という二本立てです。私もこの形で仕事をしていますが、これで困ったことは特にありません。紹介会社経由の産業医も、契約は会社同士、選任されるのは医師という同じような形が多いです。



会社で契約しても、選任されるのは私個人なんですね。



そうです。法人を作っても、産業医としての責任は医師本人にあると考えておきましょう。
合同会社と株式会社、どちらにするか


産業医事務所を法人にするとき、医療法人である必要はありません。合同会社や株式会社といった、一般の会社で始められます。作り方も一般の会社の設立と同じです。
二つの大きな違いは、設立のときにかかる法定の費用です。
| 項目 | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 定款の公証人の認証 | 不要 | 必要(手数料3万〜5万円) |
| 登録免許税 | 資本金の0.7%(最低6万円) | 資本金の0.7%(最低15万円) |
| 紙の定款の収入印紙 | 4万円 | 4万円 |
| 電子定款にした場合の印紙 | 不要 | 不要 |
定款認証の手数料は資本金の額で変わり、100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、それ以外は5万円です(公証人手数料令第35条)。発起人が3人以下の個人で、取締役会を置かないなどの条件を満たすと、100万円未満は1万5千円になります。
登録免許税は登録免許税法の別表第一、定款の印紙は印紙税法の別表第一第6号で決まっています。
資本金が小さく電子定款で作る場合、設立の主な法定費用は、合同会社で6万円、株式会社で登録免許税15万円+定款認証の手数料です。ここに司法書士へ頼む場合の報酬が加わります。
私は株式会社を選びましたが、産業医の仕事をするうえでは、どちらでなければいけないということはないと考えています。



個人的には株式会社がオススメです。合同会社はまだ広く知られていません。迷ったら税理士や司法書士に相談しましょう。
作る手順と、誰に頼むか


会社を作る大まかな流れは次のとおりです。
- 会社の名前・本店の場所・資本金・事業の目的などを決める
- 定款を作る(株式会社は公証人の認証を受ける)
- 資本金を払い込む
- 法務局に設立の登記を申請する
- 設立後に、税務署・都道府県・市町村、年金事務所へ届け出る
頼み方は3つ
- 自分で作る:会社設立のクラウドサービスを使えば、定款も自分で作れる
- 司法書士に頼む:定款の作成から登記まで任せられる
- 税理士から司法書士を紹介してもらう:設立から会計まで一気通貫で進められる
私自身は、freeeの会社設立のサービスを使って自分で作りました。定款も自分で作れて、最後に確認してもらえる仕組みでした。



自分でも作れるんですね。でも定款はしっかり作ったほうがいい、と。



はい。あとから直すのは手間なので、最初に専門家の目を通しておくことをオススメします。
法人にすると増える費用と、まだ個人でよい人


法人にすると、売上がなくてもかかる費用と事務が増えます。代表的なものは三つです。
社会保険
法人の事業所は、健康保険と厚生年金の適用事業所になります(健康保険法第3条、厚生年金保険法第6条)。代表者1人の会社でも、役員報酬を受けていれば加入の対象です。
私はほかの会社に勤めていないので、この点で困ったことはありませんでした。勤務先がある先生は扱いが変わることがあるので、分からないことは税理士や社労士に相談すれば大丈夫です。
顧問税理士と決算
法人は毎年、決算と法人税などの申告が必要です。法人にするなら、顧問税理士は初年度からお願いしておくのがよいと思います。費用は、私の感覚では年間50万円くらいかかります。
紹介会社経由の契約でも法人で受けられることが多いので、売上は法人に入り、その中から払えます。
赤字でもかかる住民税の均等割
法人住民税の均等割は、利益が出なくてもかかります。資本金1,000万円以下・従業者50人以下なら、標準税率で道府県民税2万円と市町村民税5万円です(地方税法第52条・第312条。自治体によって上乗せがあります)。
まだ個人のままでよい人
まだ個人のままでも問題はありません。目安としては、税理士の費用などのランニングコスト年間60万円ほどを、無理なく払えるようになったら法人を考えてよいと思います。
案件を増やす段階の先生は、まず紹介会社の選び方を押さえておきましょう。


まとめ
今回は産業医の法人化の理由と手順に関して紹介を行いました。
- 個人の医師が受ける産業医の報酬は、原則として給与(国税庁)
- 法人にすると企業対企業の取引になり、事業として信頼を得やすい
- 法人で契約しても、産業医として選任されるのは医師個人
- 医療法人でなくてよい。設立の主な法定費用は、合同会社で6万円から、株式会社で登録免許税15万円+定款認証の手数料から
- 社会保険・顧問税理士・均等割で、年間60万円ほどのランニングコストを払えるかが目安



以上、「産業医の法人化。産業医事務所を会社にする理由と手順」についてまとめました。産業医を事業として続けると決めたら、早めに税理士に相談することをオススメします。
独立して産業医事務所を作るまでの全体は、こちらの記事で解説しています。










