産業医の意見書の書き方と本人開示。病気の話と仕事の話を分ける
こんにちは。産業医の角田拓実です。
今回は「産業医の意見書の書き方と本人開示」について解説していきます。
産業医になると、面談や健康診断のあとに意見書を書く場面がたくさんあります。私は月に30件ほど書いていて、いちばん多いのは産業医面談のあとです。面談に合わせて1枚ずつ発行しています。
初めての先生は、何をどこまで書けばいいのか、病名を書いていいのか、本人に見せるものなのか、迷うことが多いと思います。
先に結論をいうと、産業医の意見書は病気の話ではなく、仕事の話を書く書類です。
Dr.瑛理初めて意見書を頼まれました。病名を書いていいのかも分からなくて…。



まずは診断書との違いを押さえましょう。そこが分かると、書くことと書かないことが自然に決まってきます。
産業医の意見書とは?診断書との違いと、書く場面


主治医の診断書には、病気の状態や状況、休職が必要かどうかなどが書かれます。一方、産業医の意見書は仕事ができるかどうかをメインに書きます。
同じ医師が書く書類でも、性質が違います。「病気の話」と「仕事の話」をよく分けておくことが、意見書の第一歩です。
意見書を書く主な場面
法律では、医師の意見を聴く義務は事業者(会社)にあります。産業医は意見を求められる側で、その意見を形にしたものが意見書です。
| 場面 | 根拠 | 意見を書く先と時期 |
|---|---|---|
| 健康診断で異常の所見があった人 | 労働安全衛生法 第66条の4 | 健康診断個人票(健診から3か月以内) |
| 長時間労働の面接指導 | 同法 第66条の8第4項 | 面接指導の記録(面接のあと遅滞なく) |
| ストレスチェック後の面接指導 | 同法 第66条の10第5項 | 面接指導の記録(面接のあと遅滞なく) |
| 休職・復職 | 法令の定めはなく、厚労省の手引きに沿う | 職場復帰に関する意見書など |



診断書と同じように書けばいいと思っていました。



病気の診断は主治医の役目です。産業医は「この人がこの職場でどう働けるか」を書きましょう。
ストレスチェックの面接指導を単発で受けて経験を積む方法は、こちらで紹介しています。


意見書の様式は決まっていない。厚労省の様式例と自分の書式


意見書の様式は、一つに決まっているわけではありません。企業から様式を渡されればそれを使い、なければ自分の書式で書きます。
私も最初のころは、教科書の「嘱託産業医スタートアップマニュアル」に付いている書式のファイルを使っていました。いまは自分のオリジナルの書式を使っています。
厚生労働省が出している様式例もあります。場面ごとに、次の3つを押さえておくと便利です。
- 健康診断:健康診断個人票に医師の意見を書く(労働安全衛生規則 第51条の2)
- 面接指導(長時間労働・ストレスチェック):厚生労働省「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル」の様式例(Word版あり)
- 休職・復職:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の様式例3「職場復帰に関する意見書」



企業から様式を渡されないこともあるんですね。



最初は様式例や教科書の書式を借りて、慣れてきたら自分の書式に整えていくのがオススメです。
私が産業医を始めるときに読んだ教科書は、こちらで紹介しています。


意見書に書くこと・書かないこと。人事向けと現場向けで分ける


意見書の原則は、職場の人が知らなくてもいい情報は書かないことです。病名も、プライバシーに関わるので基本的には書きません。
ただ、就業制限がなぜかかるのか、その理由は書いてもいいと考えています。
人事が見る意見書と、現場まで下りる意見書
大事なのは、意見書を誰が読むのか、ルートを分けておくことです。人事の人が見る意見書と、職場(現場)まで下りる意見書は、分けておくべきだと考えています。
| 読む人 | 書くこと |
|---|---|
| 人事の担当者 | 就業制限の内容と、制限がかかる理由 |
| 職場(現場)の上司 | 就業制限の内容だけ |
| どちらにも書かない | 病名など、職場の人が知らなくてもいい情報 |
診断名、具体的な愁訴の内容等は記載しない。
厚生労働省「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル」(高ストレス者の面接指導の記載方法)



理由は書いてもいいけれど、病名は書かない。読む人によって書き分けるんですね。



はい。書く前に「この紙が誰の手まで届くか」を考えておきましょう。
就業上の措置の書き方。区分・数字・期間


就業上の措置は、まず区分を決めます。厚生労働省の健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針では、区分の例を次の3つにしています。私も通常勤務・就業制限などの区分を使っています。
| 区分 | 内容(指針の区分の例) |
|---|---|
| 通常勤務 | 通常の勤務でよいもの |
| 就業制限 | 勤務に制限を加える必要のあるもの(労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、作業の転換、深夜業の回数の減少など) |
| 要休業 | 勤務を休む必要のあるもの(療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させない) |
守ってほしいときは数字で書く
初めのころにつまずきやすいのが、就業制限をあいまいに書いてしまうことです。あいまいだと、会社は「現場にどう下ろせばいいのか」と困ってしまいます。なるべく具体的な数字を書いてあげるのがオススメです。
私は、ちゃんと制限してほしいときは「ここまで」と具体的に書きます。緊急性が高いときは、具体的な数字まで書きます。
一方で、企業の状況に合わせて裁量を持たせたいときは「残業時間の低減に努めてください」のような書き方にすることもあります。
| ねらい | 書き方の型 |
|---|---|
| 守ってほしいとき | 時間外労働は月○時間まで |
| 会社に裁量を持たせるとき | 残業時間の低減に努めてください |
措置期間と、次の面談の時期を書く
措置は、いつからいつまでかを措置期間として書きます。期間の終わりのところには「もう一度面談をしてください」として、次回の面談の時期を書いておきます。



「配慮してください」だけだと、現場が困ってしまうんですね。



はい。読んだ上司が明日から何をすればいいか分かる書き方を目指しましょう。
意見書で書いている判断を、口で説明する場が労働衛生コンサルタントの口述試験です。受験を考えている先生は、労働衛生コンサルタント口述試験の対策を参考にしてください。
健診のあとの判定で、どの区分にするかの考え方は、こちらにまとめています。


意見書は本人に見せる?本人開示に備えた書き方


意見書は会社が管理する書類なので、私は本人に見せる必要はないと考えています。
ただ、裁判などのトラブルになったときに、本人から「見せてください」と言われ、見せざるを得ないこともあります。開示されることはあるので、本人が見ても問題ない内容で書くようにしています。見せられないような内容は、書いてはいけません。
開示の請求は会社に対して行われる
本人は、会社に対して自分の情報の開示を請求できます(個人情報の保護に関する法律第33条第1項)。
厚生労働省と個人情報保護委員会の健康情報の取扱いに関する留意事項では、面接指導の結果の記録など医師の判断や意見も、本人から請求があれば原則として開示するとされています。本人や第三者の権利利益を害するおそれがあるときなどは、全部または一部を開示しないことができます(同法第33条第2項)。



本人に読まれても困らない書き方をしておく、ということですね。



はい。最初から「いつか本人が読むかもしれない」と思って書いておけば安心です。
訪問日の中で面談と意見書をどう回しているかは、こちらで紹介しています。


会社が意見どおりに動かないとき
意見書を出しても、会社が意見どおりに動かないことはあります。法律も、会社は医師の意見を勘案し、必要があると認めるときに措置をとる、という書き方です。
繁忙期など、どうしても働いてもらわなければならない時期もあるので、仕方ない部分はあります。
そのとき私は、医師の意見を尊重しなかった場合に事故などが起きると、意見を相当程度無視していたという事実は、あとで評価されるところがあるという話を会社にします。
厚生労働省の指針では、会社が措置を決めるときは、あらかじめ本人の意見を聴き、話し合いを通じて了解が得られるよう努めることが適当とされています。必要に応じて産業医が同席することも挙げられています。
勧告を含めて、産業医にできることとできないことは、産業医の仕事内容の記事で整理しています。



意見どおりにならないこともあるんですね。



事情があるときも、事故が起きたときにどう見られるかまで、会社に伝えておきましょう。
登録先を先に見ておきたい方は、以下の3社から始められます(広告)。どこも登録は無料で、産業医の求人も扱っています。求人は会社ごとに違うので、2〜3社に登録しておくと案件を比べやすくなります。希望の働き方は事実どおりに選んでください。
まとめ
今回は産業医の意見書の書き方と本人開示に関して紹介を行いました。
- 診断書は病気の話、産業医の意見書は仕事の話。二つをよく分ける
- 様式は一つに決まっていない。厚労省の様式例や教科書の書式から始めて、自分の書式に整える
- 職場の人が知らなくてもいい情報や病名は書かない。人事向けと現場向けで書き分ける
- 守ってほしい就業制限は数字で書き、措置期間と次の面談の時期まで書く
- 本人に見せる前提の書類ではないが、開示されることはある。本人が読んでも問題ない内容で書く



以上、「産業医の意見書の書き方と本人開示」についてまとめました。病気の話と仕事の話を分け、読む人に合わせて具体的に書くのをオススメします。
嘱託の案件を探すときは、こちらの記事も参考にしてください。









