産業医の健診判定と就業判定の進め方。通常勤務・就業制限・要休業の分け方
こんにちは。産業医の角田拓実です。
今回は健康診断の結果判定と就業判定の進め方について解説していきます。
健診の判定は、嘱託の産業医になると定期的に任される仕事です。私も定期の嘱託の中で判定することが多いです。50人未満の事業場のスポットは、地域産業保健センター(地さんぽ)で行うことがほとんどで、ほかに個別に頼まれて受けることもあります。企業によっては、1回で100人、200人分を見ることもあります。
初めて任されると、どこから就業制限をかけるのか、面談に呼ぶのは誰か、受診しない人をどうするのかで迷うと思います。この記事では、私が判定で考えていることと、参考になる数値の目安をまとめます。
Dr.瑛理判定で就業制限をつけるのは、責任が重そうで少し怖いです。



そう感じる先生は多いと思います。まず、判定で何を決める仕事なのかから整理しましょう。
健診の判定は「病気の診断」ではなく「働けるかの判断」


健診で異常の所見があった人について、会社は医師の意見を聴かなければなりません(労働安全衛生法第66条の4)。時期は健診から3か月以内で、聴いた意見は健康診断個人票に書くことになっています(労働安全衛生規則第51条の2)。
健診の総合判定には、要精密や要治療といった医学的な判定と、仕事をどうするかを決める就業上の判定があります(厚生労働省の検討会に出された資料)。産業医に求められているのは、後者です。
| 内科的な判断 | 産業医の判断 | |
|---|---|---|
| 考えること | 何の病気か。どう治療するか | 今の仕事を続けてよいか。どんな制限が必要か |
| 見るもの | 検査の値と症状 | 検査の値と症状に加えて、仕事の内容 |
| 次にすること | 診断と治療 | 就業区分と、会社への意見 |
内科的な判断をしてしまうと、それは産業医の仕事ではなくなってしまいます。ここは気をつけるべきポイントです。
判定の流れ
判定は、おおむね次の順番で進みます。細かいやり方は企業ごとに違います。
- 会社から健診の結果と、仕事の内容が分かる情報を受け取る
- 所見のある人を確かめ、就業区分を決める
- 就業上の措置についての意見を書く
- 必要な人は面談し、受診につなげる
- 意見をもとに、会社が措置を決める
法律では、産業医の意見を勘案して、必要があると認めるときに措置を決めるのは会社です(労働安全衛生法第66条の5)。産業医は、会社が判断できる材料を出す立場だと考えると分かりやすいと思います。
就業制限をかけるのが怖いとき
自分のチェックで就業制限がかかってしまうことに、リスクを感じる先生もいらっしゃると思います。
ただ、就業制限は恒久的にかかるものではありません。受診して解除できれば、本人は働きやすくなりますし、健康のリスクも下がります。



病気を見つける仕事だと思っていました。



治療を考えるのは主治医です。産業医は、仕事を続けられるかどうかを考えます。
判定の仕事が、訪問日の流れのどこに入るかは、こちらで紹介しています。


健診の判定のほかに産業医が何をするのかは、産業医の仕事内容の記事にまとめています。
通常勤務・就業制限・要休業。ほとんどは通常勤務


就業区分は、厚生労働省の健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針に例が示されています。
| 区分 | 内容 | 私の感覚 |
|---|---|---|
| 通常勤務 | 通常の勤務でよいもの | ほとんどの人はここ |
| 就業制限 | 勤務に制限を加える必要のあるもの(労働時間の短縮、時間外労働の制限、作業の転換、深夜業の回数の減少など) | よっぽどまずいときに出す |
| 要休業 | 勤務を休む必要のあるもの(療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させない) | いきなり出さない |
実際の判定では、ほとんどが通常勤務です。よっぽどまずい人に、就業制限を出します。
要休業は、いきなり出すことはあまりありません。企業と話したり、本人と面談したりしてから置くことがほとんどです。
指針でも、会社が措置を決めるときは、あらかじめ本人の意見を聴き、話し合いを通じて了解が得られるよう努めることが適当とされています。



休業は、面談してから決めるんですね。



はい。数字だけで決めず、会社と本人の話を聞いてから置きます。
健診の判定をスポットで受けるときの流れは、こちらにまとめています。


就業制限を考える数値の目安。産業医のコンセンサスを参考にする


私が就業制限を考えることが多いのは、高血圧、高血糖・糖尿病、心電図が著しくおかしいときです。貧血も、ときどきあります。
目安としては、厚生労働省の検討会に出された資料(平成28年)にある産業医のコンセンサスが参考になります。専業の産業医83人に3回調査して、単項目の異常でも就業制限を検討する値を聞いたものです。
| 項目 | 最も多かった値 | その値を選んだ割合 |
|---|---|---|
| 収縮期血圧 | 180mmHg | 86.6% |
| 拡張期血圧 | 110mmHg | 85.9% |
| 空腹時血糖 | 200mg/dL | 69.1% |
| 随時血糖 | 300mg/dL | 76.9% |
| HbA1c(JDS値) | 10% | 62.3% |
| ヘモグロビン | 8.0g/dL | 58.5% |
| 血清クレアチニン | 2.0mg/dL | 67.2% |
| ALT(GPT) | 200IU/L | 61.7% |
表は同じ資料の3回目の調査の結果です(資料では Tateishi et al. Journal of Occupational Health 58(1) を引用)。
数値を使うときの注意
- 法律で決まった基準ではなく、産業医の調査で多かった値
- HbA1c は JDS 値。いまの健診で使う NGSP 値とは値が少し違う
- 心電図は調査の項目に入っていない。所見と仕事の内容を合わせて判断する
- 同じ値でも、治療中かどうかや仕事の内容で判断は変わる
就業制限をかける3つの理由
同じ資料では、就業制限を次の3つの型に分けています。自分がなぜ制限をかけるのかを考えるときに役立ちます。
| 型 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 類型1 | 仕事が持病の経過に悪影響を与えるおそれ | 心不全、腎不全や貧血がある人の重筋作業 |
| 類型2 | 健康状態が原因で事故や災害につながるおそれ | 一過性の意識障害をきたすおそれのある人の運転や危険作業 |
| 類型3 | 健康リスクが大きいのに、勤務実態が受診や生活習慣を妨げている | 糖尿病のコントロール不良の人に残業制限をかけ、規則正しい生活を促す |



数字があると、少し安心します。



目安があると判断しやすくなります。あとは、その人の仕事と合わせて考えましょう。
面談に呼ぶ人、呼ばない人。受診しない人への対応


呼ぶのは、就業制限がかかるとき
私が本人をお呼びするのは、就業制限がかかるときです。本人が「受診に行きたくない」と強く言っているときでも、就業制限がかかるならお呼びします。
面談では、たとえば血圧の薬をきちんと飲めているかを確かめます。
一方で、要精密くらいのときは、呼ばないことが多いです。全員を呼ぶわけではありません。
受診しない人には、制限と解除をセットで話す
受診を勧めても受診しない人で、就業禁止に近いレベルであれば、実際に就業制限をかけるところまで行くこともあります。
そのときは、「受診すれば解除できますから、まず見てもらってください」という話をします。制限は恒久的にかかるものではありません。受診して数字が改善すれば、1か月で就業制限を解除することも可能です。解除できれば、本人は働きやすくなり、リスクも下がります。



制限が、受診のきっかけになることもあるんですね。



はい。解除の条件まで伝えると、本人も次に何をすればいいか分かります。
夜勤・運転・高所は厳しめに。会社への伝え方


同じ検査の値でも、仕事の内容で判断は変わります。夜勤、運転、高所作業のような危険業務は、より厳しめに見ます。オフィスで働いているのと、危険業務をしているのとでは、全然違います。
判定に必要な業務の情報は、医師から求められたら会社は速やかに提供することになっています(労働安全衛生規則第51条の2第3項)。仕事の内容が分からないときは、遠慮せず聞きましょう。
判定の前に確かめておきたいのは、たとえば次の点です。
- 夜勤や交代勤務があるか
- 社用車などの運転があるか
- 高所作業や機械の作業など、危険な作業があるか
- 残業はどのくらいか
現場の仕事を知っておくと、判定もしやすくなります。職場巡視で何を見るかは、こちらにまとめています。


会社には理由も、現場には内容だけを
就業制限をかけるときは、会社に理由をつけて伝えることもあります。
ただ、現場に落とすときは、就業上の制限の内容だけにするのが本来は望ましいです。とはいえ、理由をある程度伝えなければならないこともあります。
書き方の具体的なところは、意見書の記事にまとめています。





同じ数値でも、仕事によって判定が変わるんですね。



そこが産業医の判断です。検査の値だけでなく、仕事を見て決めましょう。
登録先を先に見ておきたい方は、以下の3社から始められます(広告)。どこも登録は無料で、産業医の求人も扱っています。求人は会社ごとに違うので、2〜3社に登録しておくと案件を比べやすくなります。希望の働き方は事実どおりに選んでください。
まとめ
今回は健康診断の結果判定と就業判定の進め方に関して紹介を行いました。
- 判定は病気の診断ではなく、仕事ができるかどうかの判断
- ほとんどは通常勤務。就業制限はよっぽどまずいときに出し、要休業はいきなり出さない
- 数値は産業医のコンセンサスを目安にしつつ、仕事の内容と合わせて判断する
- 呼ぶのは就業制限がかかるとき。要精密くらいなら呼ばないことが多い
- 受診しない人には、制限と解除をセットで話す
- 夜勤・運転・高所は厳しめに。現場には制限の内容を中心に伝える



以上、「産業医の健診判定と就業判定の進め方」についてまとめました。迷ったら、この人は今の仕事を続けられるか、に立ち戻ってみてください。
嘱託の案件を探すときは、こちらの記事も参考にしてください。








