産業医の職場巡視のやり方とチェックポイント。何を見て、どう伝えるか
こんにちは。産業医の角田拓実です。
今回は「産業医の職場巡視」について解説していきます。
産業医になると、訪問のたびに職場を見て回る「巡視」があります。初めての先生は、工場やオフィスを歩いて何を見ればいいのか、見つけたことをどう伝えればいいのか、迷うことが多いと思います。
病院や大学とは違い、職場には職場ならではの見るべきところがあります。この記事では、私が巡視で意識していることを、法令の決まりとあわせて紹介します。
Dr.瑛理巡視って、職場を歩いて何を見ればいいんですか?



まずは「安全」と「衛生」を分けて考えるところから始めましょう。順番にお話ししますね。
職場巡視は少なくとも毎月1回。1回10〜30分でも続けることが大事


産業医の巡視は法令で決まっていて、少なくとも毎月1回、作業場などを巡視することになっています(労働安全衛生規則 第15条)。
衛生管理者が行う巡視の結果などの情報を毎月受け取っていて、事業者の同意があるときは、少なくとも2か月に1回にできます(同条)。
訪問日の巡視は10〜30分
私の場合、嘱託の訪問日が2時間なら、巡視はだいたい30分です。日によって10分ほどのときもあります。
毎回すべての場所を回るわけではありません。1年かけて全体を回る、年2回全体を回るといったスケジュールを立てて、限られた時間をどう生かすかを考えます。
訪問日の時間の使い方は、こちらの記事で詳しく紹介しています。


巡視でまず見るのは「衛生」。産業医は衛生の専門家


巡視では、安全分野と衛生分野を分けて考えることがとても大事だと考えています。
| 衛生分野(産業医の専門) | 安全分野 | |
|---|---|---|
| 見るもの | 有機溶剤・特定化学物質・振動・騒音・放射線など、目に見えないもの | 足元の段差・突起物など、目につくもの |
| 産業医の関わり方 | 巡視の中心として確かめる | 目についたら注意を伝える |
どちらも職場にとって大事ですが、産業医が巡視でいちばん力を発揮できるのは衛生分野です。
衛生分野:目に見えないものを確かめる
産業医は衛生分野の専門家です。有機溶剤、特定化学物質、振動、騒音、放射線など、目に見えないものを対象に確認していくのが基本です。
あわせて、通路、休憩室、トイレ、有害物の置き場も確かめておきたいところです。
安全分野:目についたら伝える
足元の段差や突起物など、安全分野のことも巡視中に目につくことがあります。そのときは注意を伝えるのも一つの手です。
工場の巡視でよく見つかること
工場では、次のようなことがよく見つかります。
- 置くべきではない場所に化学物質が置いてある
- 化学物質の容器にラベルがない
- 騒音を確認(測定)していない
- あるべき場所に必要な掲示がされていない
作業環境測定の結果も見る
有害な業務を行う屋内作業場などでは作業環境測定が行われ、結果は第1〜第3管理区分に評価されます(労働安全衛生法 第65条・第65条の2)。
第1管理区分は作業環境管理が適切であると判断される状態、第3管理区分は適切でないと判断される状態です(厚生労働省「作業環境評価基準の適用について」)。



有害物のことは、まだあまり自信がありません…。



最初からすべてをマスターしていなくても大丈夫です。まずは医師としての知識の範囲で見ていきましょう。
有害な要因については、労働衛生コンサルタントの勉強などでしっかり学んでいくのが基本です。


オフィスだけの職場は「事務所衛生基準規則」を見ながら回る


オフィスだけの職場では、事務所衛生基準規則(事務所則)を見ていくだけでちょうどいいと思います。
照度、騒音、二酸化炭素の濃度、人の密度、温度、湿度を、基準と見比べながら確認していきます。
| 見るところ | 事務所衛生基準規則の基準 |
|---|---|
| 人の密度(気積) | 労働者1人あたり10立方メートル以上(第2条) |
| 二酸化炭素 | 空気調和設備などで供給する空気は100万分の1,000以下(第5条) |
| 温度・湿度 | 空気調和設備がある場合、18度以上28度以下・相対湿度40%以上70%以下になるよう努める(第5条) |
| 照度 | 一般的な事務作業は300ルクス以上、付随的な事務作業は150ルクス以上(第10条) |
| 騒音・振動 | 有害な影響を及ぼすおそれのある騒音・振動は、伝わるのを防ぐ措置をとる(第11条) |



オフィスなら、見るところがはっきりしていて安心です。



事務所則の項目を順番に見ていけば、見落としが減ります。表を手元に置いて回るのがオススメです。
指摘は「3つ褒めて1つ」。危ないものから少しずつ


一気にたくさん指摘すると、職場の人も困ってしまいます。私は3つ褒めて1つ指摘するくらいの感覚で調整しています。
指摘するときは、優先度の高い、危ないものから伝えるのが大原則です。全体を改善できる順番に、少しずつ進めていくのがおすすめです。
伝え方:報告書・口頭・衛生委員会
巡視の結果は、報告書にまとめて伝えるのが一番だと考えています。その場で口頭で説明しながら伝えてもよいですし、衛生委員会で報告するのもありです。
やりっぱなしにしない
指摘したままで終わらせないことも大切です。衛生委員会で「いつまでに直すか」を確認したり、職場の人への教育につなげたりしていきましょう。



指摘は少しずつで大丈夫です。危ないものから順番に、職場と一緒に改善していきましょう。
初めての巡視と、限られた時間の使い方


初回は教えてもらいながら理解する
特に1回目の巡視では、職場の状況を教えてもらいながら、しっかり理解していくことが大切です。分からないことは聞いてください。知ったかぶりはよくありません。
衛生管理者は少なくとも毎週1回巡視することになっています(労働安全衛生規則 第11条)。その結果を共有してもらうのも、職場を知る助けになります。
テーマを決めて回る
大きな工場では、1年かけて全体を回ることも十分にあり得ます。
巡視は訪問して行う
面談はオンラインで行うこともありますが、巡視はオンラインではできないので訪問して行います。オンラインでできる仕事の範囲は、こちらにまとめています。


新しい知識を入れ続ける
職場の有害な要因や決まりは変わっていきます。常に新しい知識を入れていくことが大事です。



初回から完璧にできなくてもいいんですね。



はい。職場の人に教えてもらいながら、巡視のたびに見るところを増やしていけば大丈夫です。
嘱託産業医の仕事全体については、こちらの記事が参考になります。
登録先を先に見ておきたい方は、以下の3社から始められます(広告)。どこも登録は無料で、産業医の求人も扱っています。求人は会社ごとに違うので、2〜3社に登録しておくと案件を比べやすくなります。希望の働き方は事実どおりに選んでください。
まとめ
今回は産業医の職場巡視のやり方とチェックポイントに関して紹介を行いました。
- 巡視は少なくとも毎月1回(条件つきで2か月に1回)。1回10〜30分でも、1年かけて全体を回る
- 安全と衛生を分けて考える。産業医は衛生の目で、目に見えないものを確かめる
- オフィスは事務所衛生基準規則を見ながら回る
- 指摘は3つ褒めて1つ。危ないものから少しずつ、やりっぱなしにしない
- 初回は職場に教えてもらいながら理解し、知ったかぶりをしない



以上、「産業医の職場巡視」についてまとめました。グッドポイントを見つけながら、職場と一緒に改善していくことをオススメします。
嘱託の案件を探すときは、こちらの記事も参考にしてください。










