産業医の仕事内容は?法令で決まる職務と、できること・できないこと
こんにちは。産業医の角田拓実です。
今回は「産業医の仕事内容」について解説していきます。
1社目が決まると、次に気になるのは「実際に何をするのか」「どこまでやっていいのか」だと思います。会社から、産業医の仕事なのか迷う依頼を受けることもあります。
産業医の仕事は、法令で決まっている職務が土台です。そのうえで、できることと、できないことがあります。
先に結論をいうと、産業医は治療者ではなく、働く人の健康について会社に意見を伝える医師です。
Dr.瑛理1社目が決まりました。何をどこまでやればいいのか、まだ全体が見えていません。



まず法令で決まっている職務を押さえましょう。そこから、できることとできないことを順番に見ていきます。
法令で決まっている産業医の職務


産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項に9つの事項として挙げられています。どれも「医学に関する専門的知識を必要とするもの」とされています。
| まとまり | 第14条第1項に挙がっている事項 |
|---|---|
| 健診と面接指導 | 健康診断の実施とその結果に基づく措置に関すること/長時間労働者などの面接指導/ストレスチェックと面接指導 |
| 職場の環境と作業 | 作業環境の維持管理/作業の管理 |
| 健康づくりと教育 | そのほかの健康管理/健康教育・健康相談など/衛生教育 |
| 原因の調査 | 健康障害の原因の調査と再発防止 |
このほかに決まっているのが職場巡視です。第15条で、少なくとも毎月1回、条件を満たして事業者の同意があれば少なくとも2か月に1回、作業場などを巡視します。
巡視で何を見て、どう伝えるかは、産業医の職場巡視のやり方とチェックポイントにまとめています。
衛生委員会などで話す講話の準備は、衛生講話のネタと資料の作り方が参考になります。



法令の言葉と、現場の仕事の名前がつながってきました。



一つひとつの進め方は別の記事にまとめています。まず全体の地図として覚えておきましょう。
健診のあとの判定は、こちらの記事で解説しています。


産業医にできること。意見・勧告・情報の収集


産業医は、会社に働きかける手段を法令で持っています。事業者は、産業医に職務を行うための権限を与えなければならないとされています(第14条の4)。
| できること | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 意見を述べる | 事業者や総括安全衛生管理者に意見を述べる | 労働安全衛生規則 第14条の4 |
| 情報を集める | 職務に必要な情報を労働者から集める | 同上 |
| 緊急時に指示する | 緊急の必要があるとき、労働者に必要な措置を指示する | 同上 |
| 情報の提供を受ける | 時間外・休日労働が月80時間を超えた人の氏名や時間など | 労働安全衛生法 第13条第4項、規則 第14条の2 |
| 勧告する | 健康を確保するため必要があると認めるとき、事業者に勧告する | 労働安全衛生法 第13条第5項 |
勧告は強い手段。私は使ったことがない
勧告を受けた事業者は、それを尊重しなければなりません(労働安全衛生法第13条第5項)。産業医は勧告の前に事業者の意見を求めます。事業者は内容を衛生委員会に報告し、勧告の内容と講じた措置を記録して3年間保存します(同条第6項、規則 第14条の3)。
ただ、私は勧告を使ったことがありません。意見を伝えてやり取りするだけで、うまくいくことがほとんどです。



勧告は、最後の手段なんですね。



はい。まず意見書や面談で伝え、話し合って進めるのがふだんの形です。
意見の書き方は、こちらにまとめています。


産業医にできないこと。いちばんは治療者にならないこと


これから始める先生に一番伝えたいのは、産業医は治療者ではないということです。
第14条第1項の9つの事項に、診療や治療、処方は挙がっていません。私は、産業医として会社で診察をしてはいけないと考えています。
メンタルヘルス不調と休みが絡むときは特に注意
最近は、オンライン処方を組み合わせる先生もいらっしゃいます。軽度なものなら、私も止めはしません。
ただ、メンタルヘルス不調や休みが絡むものは気をつけたほうがいいと思います。治療者としてサポートすると、どうしてもご本人の側に立つことになります。「まだ戻れない」といった厳しい判断ができないタイミングがあり、こじれることがあるからです。
「それは違う」と思った依頼
会社から頼まれて、産業医の仕事とは違うと感じたものには、健康診断そのものの実施や採血、処方、診断書の作成があります。
健康診断を実際に行うのは、実態として健診機関などの医療機関です。産業医が担うのは、結果の確認や就業判定です。
健康情報をどこまで会社に伝えるか
機微な内容を会社に伝えなければならないときは、本人の同意を取ることがあります。一方、産業医の意見書の範囲で確認するときは、同意を取らないことが多いです。
人事には、就業制限に関わる内容と最低限の情報を伝えます。意見書に病名は基本的に書きませんが、必要なときに人事へ伝えることはあります。現場には、基本的に就業制限がかかるという形で伝わるようにします。伝え方は事例によって変わります。



医師だから何でも頼まれそうですが、線を引いていいんですね。



はい。治療は主治医、職場での働き方は産業医と分けておくと、本人にも会社にも分かりやすくなります。
休職・復職を産業医だけで決められるという誤解


会社の担当者が誤解しやすいのが、産業医なら休職や復職を完全に判定できるという思い込みです。「産業医の判断で休職させてください」と頼まれることがあります。
産業医は会社の中にいますが、そこで療養を行っているわけではありません。特に休職の判定には、主治医の診断書があったほうがいいと考えています。
休みの間の金銭的な保障になる傷病手当金は、療養のため仕事に就けないときの給付です(健康保険法第99条)。協会けんぽの案内では、仕事に就くことができない状態の判定は「療養担当者の意見等を基に」判断するとされています。療養に関わっている主治医の関わりが欠かせません。
復職は主治医・産業医・会社で役割を分ける
| だれが | 役割 |
|---|---|
| 主治医 | 病状の回復をみて、職場復帰が可能かを判断し、診断書を書く |
| 産業医 | 主治医の判断と、職場で必要な業務遂行能力などを精査し、意見を述べる |
| 事業者(会社) | 最終的な職場復帰を決定する |



休職も復職も、産業医がひとりで決めるわけではないんですね。



はい。主治医と連携して、会社が決められる材料を意見書として伝えていきましょう。
嘱託と専属で、できることはどう変わるか


法令の職務は同じですが、関わり方は嘱託と専属でかなり違います。
| 専属 | 嘱託 | |
|---|---|---|
| 立場 | 社内の人間として関わる | 外部のコンサルタントのように支援する |
| できること | 多くの業務やサポート。健康管理体制や健康施策の立案・支援 | 限られた時間で要点を支援する |
| 気をつけること | 摩擦が起きやすい | 短い時間で意見を言い切り、やり取りする |
専属は業務やサポートをたくさんでき、時間の調整もききます。企業の健康管理体制や健康施策の立案、支援まで関われるのが魅力です。一方で社内の人間になるので、どうしても摩擦は起きやすくなります。
嘱託は、選任された産業医という立場は同じでも、実際は外部のコンサルタントのように支援します。短い時間で意見を言い切り、短い時間でコミュニケーションをとることが求められます。



同じ産業医でも、立ち位置が変わるんですね。



はい。自分がどちらの立場で関わるのかを意識しておきましょう。
嘱託と専属のそれぞれの働き方は、こちらで解説しています。
最初に「ここまでやります」を伝える
業務の範囲は、契約書の時点で軽く話していることが多いです。担当者が産業医の仕事を知らないこともあります。
全部を話すわけではありません。まずやる業務を話すのがいいと思います。
- 職場巡視
- 安全衛生委員会への参加
- 産業医面談
- 健康診断の就業判定
- ストレスチェックの実施者



最初に全部説明しなくてもいいんですね。



はい。やる業務から話すと、担当者も次に何をすればいいか分かりやすくなります。
訪問日の時間の使い方は、こちらにまとめています。


登録先を先に見ておきたい方は、以下の3社から始められます(広告)。どこも登録は無料で、産業医の求人も扱っています。求人は会社ごとに違うので、2〜3社に登録しておくと案件を比べやすくなります。希望の働き方は事実どおりに選んでください。
まとめ
今回は産業医の仕事内容に関して紹介を行いました。
- 職務の土台は、労働安全衛生規則 第14条第1項の9つの事項と、第15条の職場巡視
- できることは、意見・情報の収集・緊急時の指示・勧告など。勧告は強い手段で、私は使ったことがない
- いちばんの線引きは、治療者にならないこと
- 休職・復職は産業医だけで決めない。主治医と連携し、復職の最終決定は会社
- 専属は社内の人間として、嘱託は外部の支援者のように関わる



以上、「産業医の仕事内容」についてまとめました。治療者ではないことを意識して、最初にやる業務から伝えることをオススメします。
これから案件を探す先生は、こちらの記事も参考にしてください。










