専属産業医の働き方とは?働く条件・待遇・QOLに関して解説します。
こんにちは。産業医のDr.巴です。
今回は産業医の働き方ということで「専属産業医」の働き方に関して解説をさせていただきます。
私自身も専属産業医を1年半として大手製造現場で産業医としてのイロハを学びました。
一般的な嘱託産業医と比べ同じ部分もありますし、異なる部分も多くあります。
時間的にはコミットする必要はありますが、産業医として本格的に稼働するのであれば修行をしてみるのはありだと考えます。
今回はあまり語られることの多くない専属産業医の働き方に関して説明を行っていきます。
嘱託産業医の情報に比べて専属産業医の情報はあまり検索してもでてこないですね。
専属産業医に関しては多く語られることは意外と少ないです。今回は専属医の実際の働き方を解説していきます。
専属産業医とは?
専属産業医とはそもそもどんな存在でしょうか?医学部や講習会で説明を受けているとは思いますが復習をしておきましょう。
専属産業医を選任しなければいけないケースは?
企業は一つの事業所で1000人以上の労働者を常時雇用している場合に専属の産業医として選任をする義務があります。
また、意外と知られていませんが、有害業務に500人以上従事する事業所でも専属産業医を選任する必要があります。このようなケースは多くはありませんがぜひ覚えておいてください。
専属産業医はまさに「専属医」として企業で働く必要があります。
基本的には職場に常駐し産業医の業務を行います。
週の勤務日数は3日~5日とややばらつきはありますが、多くの時間を企業で過ごすことに変わりはありません。
イメージとしては勤務医に近い働き方です。会社という組織に所属して業務を行っていきます。
嘱託産業医と兼務をしてよい?
専属産業医を行いながら専属産業医を行ったらより研鑽できるなと考える先生もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、専属産業医が嘱託産業医を兼務することは基本的にはNGとされています。
専属産業医は働く職場に専属の医師で常駐が基本と考えられているからです。
例外的に所属する企業のグループ会社や関連会社での嘱託産業医業務は認められています。
グループ内で工場がいくつかある際や関連する下請け会社での嘱託産業医業務は認められています。
一方で、関係のない通常の求人は基本的にはNGですのでしっかりと意識しておく必要があります。
色々な業種を経験しようと思っていたので少し残念です。
専属産業医をしながら、やめた後に就職予定の嘱託産業医業務を始めてはいけないので留意してください。
臨床医との兼業は可能?
一方で臨床医としての業務に関しては専属産業医として産業医の届け出がされていても実施することは可能です。
例えば週3日の専属産業医業務+週2日の内科外来のようなパターンです。
このケースに関しては問題無くとがめられるケースは基本的にはありません。
もちろん健診などのバイトでも全く問題はありません。
留意する点としては、専属産業医先の「副業規定」に関して確認を行うことです。
職場の社内規則で副業が禁止されている場合は「臨床医としての副業」が認められないケースも存在しています。
この状況を防ぐためには契約を結ぶ前に予め臨床業務を行ってよいか交渉をすることです。
「医師としての能力を低下させないため」といった理由で十分臨床業務が認められるケースが多いでしょう。
予め臨床業務の外勤をやることに関して交渉をすることがトラブル防止のカギです。後からもめないために先に相談をしておきましょう。
専属産業医の業務は?
産業医業務という点では嘱託医と変化なし
専属産業医と嘱託産業医の業務の違いには大きな変化は有りません。職場巡視をし、健康診断結果をチェックし、面談を行うという点では違いはありません。
一方で、やはり1000人を超える大企業ですので規模感が大きく変わってきます。
従業員が多くなるにつれ心身の不調者の絶対数は増加していきますので単純な業務量が増加していきます。
また、中小企業のように病気=退職といったケースは少なく雇用を守っていくという傾向が強いため嘱託産業医が経験する事例より重めの事例を経験することも多いです。
産業医面談や職場巡視に関しては専属産業医として職場に常駐していることもあり、嘱託産業医のように「1カ月後の訪問時に対応します」とはならず、1週間後や数日後に実際にどう物事が進んだかをチェックすることができることもポイントです。
専属産業医はきめ細やかなフォローアップができる点は、経験値の浅い産業医には大切ですね。得られるものは多そうです。
健康増進活動に深くかかわる
専属産業医は職場内で産業医の法律で定められた仕事をするだけには留まりません。
時間的に職場にコミットできる専属産業医は法律で定められた業務だけではなく、職場の健康増進に関わる施策を行うことも大切な業務です。
最近では「健康経営」に関する業務を任されるケースが増えてきています。健康経営優良法人とは「従業員の健康に投資をすることで会社の利益をアップさせる」という考え方です。
認定を取得するためには職場の健康に関する様々な施策を実施・管理を行う必要があります。
専属産業医として健康経営のリーダーシップをとっていくことが魅力でもあり重要な業務でもあります。
健康経営に関する注目が集まってきています。健康経営アドバイザーの資格を取得する産業医の先生も増えてきています。
統括産業医として企業全体の衛生管理に関与可能
専属産業として実績を積んでいくと「統括産業医」としての職位を与えられるケースもあります。
日本全国に支店があるようなグループ企業においては企業全体の衛生管理の均一化・標準化のために全体のクオリティコントロールを実施する必要があります。
統括産業医は地域の産業医をまとめながら全社的な健康管理施策を作成していきます。
健康診断の判定の基準、復職対応のマニュアル化、喫煙対策など多様な判断を求められることも増えていきます。
専属産業医をするメリット
多くの従業員のサポートを行う専属産業医ですが、業務を行っていく上でのメリットはどんなものがあるでしょうか?
ここでは専属産業医にチャレンジするメリットを紹介していきます。
産業医として研鑽を積むことができる
専属産業医として働くメリットは何といっても自身の産業医としての実力を研鑽することができる点でしょう。
嘱託産業医はどうしても企業からみるとお客さん・外部のコンサルタントといった立ち位置になってしまいます。
専属産業医は会社の中にいる組織人です。
会社のメンバーも会社の一員として扱ってくるため、様々なフィードバックを受けることが多いです。時には耳が痛い意見を頂くことも少なくありません。
このような一つ一つの出来事が産業医としての力を増加させてくれます。
専属産業医をじっくり行うと、産業医としての実力はグッとアップします。チャンスがあれば専属医を経験しておくことはオススメです。
安定した報酬を得ることが可能
専属産業医として会社の中に入ると病院での勤務と同様に定期的に安定した報酬を得ることが可能です。
嘱託産業医として仕事を少しずつ増やしていく場合は報酬が積み上げ式ですが、専属医では就職できれば安定して給料をもらうことが可能です。
企業によってはリモートワークが許されている職場もあるため、安定した収入と時間的余裕がえられることがうれしいですね。
福利厚生がしっかりしている
専属産業医を雇用するレベルの大企業では福利厚生が充実しているケースが多いです。
前述した有給休暇がしっかりとれることは病院勤務ではあまり考えられませんね。年5日とらせる義務もあったりして「休んでください」と言われることすらあります。
また、関連する宿泊施設や療養施設が利用可能なケースもあります。社員食堂が割安に利用できる点も魅力的ですね。
病院の「自分で全部負担してください」という文化はあまりない印象です。
福利厚生がしっかりしているのは大企業ならではですね。先輩の産業医は社食が充実していてうれしいと話していました。
専属産業医をするデメリット
そんな専属産業医ですが当然デメリットも存在しています。
ここでは専属産業医のデメリットを紹介していきます。
嘱託産業医と組み合わせることができない
専属産業医をしながらアルバイトで他社の嘱託産業医をして研鑽を積もうと考える先生もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、専属産業医をしながらの嘱託産業医を行うことは基本的にはNGとされ通達で規制されています。
例外としてグループ内企業や関連企業に関して業務を行うことは可能とされています。
専属医+紹介会社経由の嘱託医で稼ぐという方法は使えないので留意しておきましょう。
なお、臨床医としてのアルバイトは社内規則にのっとれば可能です。
人間関係・職場環境に悩まされる
専属産業医は基本的には会社のいち社員として扱われます。
病院のように医師がNO1という環境ではありません。
健康管理室や人事部の役職者となることは多いですが、医療従事者ではない部長や管理職がいることがほとんどです。
会社では指示系統にの取って行動をすることが求められるので病院のように「医師が指示をだしたからOK」とはならないことはしっかりと意識しておきましょう。
職場内での間接部門である健康管理部門は立場として高くないケースも多く医師によってはストレスを感じるケースがあるかもしれません。
組織に所属する以上は人間関係の問題は避けてとおれませんね。産業医は間接部門で利益に直結はしないので病院での立ち位置とは異なりますね。
報酬が臨床医に比べて少ない
専属産業医の報酬は臨床をバリバリやっている市中病院の医師に比べて決して高額ではありません。
当直での底上げは有りませんので専属の報酬は週何日仕事をするかによって変わりますが、800万円~1500万円ほどといわれています。もちろん大企業の統括産業医ともなると2000万円を超える報酬を得る医師もいますが決して多くはありません。
ただし、個人のアルバイトや外勤として臨床の業務を行うことはできますので、仕事のない土日や研究日にアルバイトをして給与の底上げを目指す産業医もいらっしゃるようです。
この辺りは病院勤務も専属産業も大きな変わりはないかもしれませんね。
専属産業医の待遇は?
専属産業医の報酬は?
専属産業医の報酬は週の勤務日数によりますが多くが800万円
専属産業医の報酬は週の勤務日数によりますが多くが800万円~1500万円程度で推移することが多いです。
週3日専属産業医を行いつつ週2日外来を行う先生も決して珍しくありません。
給料を増やしたいために当直のアルバイトを行う医師もおり、実際はもう少し伸びを見せるケースもあるでしょう。
1000万円~1200万円くらいがボリュームゾーンな印象です。昇給が無い会社もあるので契約前にきちんと確認は行いましょう。
専属産業医は必ず正社員?
産業医は必ず正社員ですか?と聞かれることがあります。
正社員として雇用されているケースもありますが、意外と定期非常勤の専属産業医として業務を行っている専属産業医も多いようです。
会社としても1名選任することが普通のため、いきなり正式に採用すると思ったより仕事ができない場合などに解雇をすることができないといったケースを考慮しているとのことでした。
また、最近では産業医紹介会社が間に挟まり、業務委託を受ける形で専属産業医を行うケースも増えてきています。
産業医を探す際は求人の内容をしっかり家訓して立ち位置を明確にすることが大切ですね。
専属産業医に当直や休日出勤はある?
専属産業医には基本的には当直や休日出勤は有りません。
会社が基本的には休みであったり、工場であっても人事労務部門のスタッフは休みというケースが多いです。
夜間に仕事をすることもほとんどなく定時で変えることができる点はQOLが高い仕事と言えるでしょう。
まれに、夜間勤務者の巡視ということで夜に巡視を行うケースもありますがあくまでレアケースと考えておきましょう。
生活も大切にしながらしっかり働けるのは産業医の魅力ですね。
まとめ
今回は専属産業医として勤務経験のあるDr.巴が専属産業医の働き方や待遇などに関して説明を行ってきました。
専属産業医は安定している反面、勤務医に比べて報酬がやや抑えられているケースが多い印象です。
また、知っておきたい情報として嘱託産業医との兼務は基本的に禁止されています。
一方で臨床医としての業務を併せて行うことで給料をアップさせている先生も少なくありません。
ぜひ、本記事を参考にして産業医の働き方を模索していただければと考えます。
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